非安定マルチバイブレータ
電子工作の主流がトランジスタ利用だったころ(多分30年くらい前か)回路に頻繁に登場した「非安定マルチバイブレータ回路」最近、この回路について質問を受けることがありましたので、復習をかねて書き留めておきたいと思います。
理解のポイントは、トランジスタでなくコンデンサ
よくある非安定マルチバイブレータ回路の例です。Wikipediaにも解説がありますし、他にも多くの方々が解説をされています。私も、なんとなく動作は理解しています。この回路について解らないという友人からの質問をよく聞いてみると、「トランジスタのベースが突然OFFになる」という解説部分が理解不能のようでした。
非安定マルチバイブレータ回路は、トランジスタ応用回路の1つとして紹介されますが、動作の主役は、むしろコンデンサにあります。このコンデンサの振る舞いを正しく理解すると、この回路が見えてくると思います。それでは、コンデンサとは、どのような振る舞いをする素子なのでしょうか?
コンデンサの振る舞い1
コンデンサの振る舞いについてシミュレーションしてみました。
V1は、5Vを0.1秒出力して、0Vを0.1秒出力して、以降それを繰り返します。グラフの青線の部分です。
R1は抵抗で、オームの法則により、電圧が決まると、流れる電流も決まります。そして、今回のテーマ、10μFのコンデンサがあります。登場人物はこの3つです。
多くの説明文章にあるように、コンデンサは電気を貯めるものですので、このグラフの動作は簡単にイメージできると思います。電源が5Vの時、電源から出発した「電気」は、抵抗を通って、コンデンサに貯められていきます。抵抗-コンデンサ間とグランドの間の電圧を見ると、電圧が上がっていっているのが見えます。電源が0Vになると、青グラフ部分は当然0Vですが、コンデンサには「貯蓄」があるため、すぐに0Vには下がりません。貯めた「電気」を放出して、赤グラフのように、電圧は徐々に下がっていきます。簡単に言ってしまえば、このようなイメージです。
コンデンサの振る舞い2
最初の回路を少しいじってみましょう・・・・・・突然、メチャクチャ難しくなりましたね。回路は、抵抗とコンデンサを入れ替えただけです。ところが、電源にもないようなマイナスの電圧が赤(PNT2部分)に出ています。非安定マルチバイブレータ回路は、このコンデンサの振る舞いを利用しています。
コンデンサは確かに電気を貯めますし放出しますが、そのときの振る舞いを知らないと回路の動きは追えないんです。では、この振る舞いを細かく追いかけていきましょう。
まず、この回路を見てください。「バカにするな」と言われそうですが、抵抗直列回路です。電源は3Vにしてみました。2つの抵抗が1KΩと、1KΩだった場合、抵抗1と抵抗2の間と、電源マイナスの間の電圧は1.5Vになります。これも直感的に理解できると思います。R1が1Kオームで、R2が2Kオームであれば、同じ地点の電圧は2Vになるというのも、イメージできると思います。
もう一度、コンデンサの振る舞い1、振る舞い2を見ると、抵抗とコンデンサが変わっただけで、回路の形(電源=>素子=>素子=>電源というループ)は、変わっていないことが判ると思います。そして、素子と素子の間と、電源マイナス側との間の電圧は、先ほど見たように、抵抗の比率で決まるんです。
振る舞い1のスタート地点を見ると、赤グラフは0V付近から始まっています。これは「コンデンサの抵抗」が、ほぼ0Vであるということです。このことから、 「コンデンサに通電した瞬間は、抵抗がほぼゼロ」 なことがわかります。お腹をすかしたコンデンサは、全開でクチを大きく開けているイメージです。
振る舞い1の赤グラフを見ると、0.1秒までの間、序所に角度を緩めながらも上昇していることがわかります。2つの素子の中点電圧が変化しているということは、抵抗が変化していることになります。抵抗の抵抗値が簡単に変化してもらっては困ります。(実際には、温度などで多少変化しますが)すると、抵抗値を変化させている犯人は、コンデンサであろうと推測できます。そう、 「コンデンサは、充電が進むと抵抗値が上昇する」 んです。コンデンサは、お腹が膨れはじめると、食べる量(充電する量)を調整するようなイメージです。
さあ、もう一度、コンデンサの振る舞い2を見てみましょう。開始時点の赤グラフは5Vです。「通電した瞬間は、抵抗がほぼ0」ですから、コンデンサ内部をスルーして、電源の5Vが、ほぼ全て抵抗に掛かっているということが解ります。その後、充電されていき、抵抗が上昇するので、赤グラフは下り坂になっています。ここも振る舞い1と振る舞い2は同じで、コンデンサの抵抗が大きくなったので、素子中間点の電圧が下がったということで納得できるでしょう。問題は、0.1秒後に、電源が0Vになったときの挙動です。
振る舞い1では、コンデンサのマイナス側は電源につながっています。つまり、「誰が何と言おうと0V」な場所です。というよりも、絶対的な0Vなんてのは、世の中存在しないわけで、この回路のある地点の電圧を、ある地点(多くはグランドと呼ぶ)を決めて、そこからの差を電圧と読んでいるわけです。ここは、電圧を計算する基準点であり、だからこそ、「誰が何と言おうと0V」なんです。シミュレータでは基準位置を明示するために、下向き三角でGNDに接続していますが、これも基準とする位置をシミュレータに通知するための回路なのです。
となると、コンデンサの立場(?)としては、片手は、位置(電圧)をガッチリ固定されているし、しかたがないので、反対の手(抵抗側)に、溜め込んだ電気を放出しよう」といったイメージの動きになります。
振る舞い2では、片方の手が電源プラス側につながっており、今の今まで5Vが供給されていました。反対の手には、抵抗を通って0Vに到達するルートがあったので、コンデンサは充電しつつ、抵抗を上げていったわけです。
0.1秒後、電源は突然5Vから0Vに出力を変更しました。コンデンサは追い込まれます(?)電源側の手に0Vをつきつけられた以上、ここは「誰がなんと言っても0V」な地点です。しかしコンデンサ内部には溜め込んだ「電気」があります。これを突然消失させることはできません。(まあ、最終手段として自爆するという手は、あるにはありますが)反対の手を見てみると、電圧によって電流を決めてくれる抵抗がいます。コンデンサは、「よし、抵抗に向かって電気を放流しよう」と企みます。電源側は、今まで+5Vだったので、プラス側です。ここを0Vにされたので、反対側をマイナス側に急激に移動させれば、その後、持っている「電気」を放流させることができそうです。電源側が5Vダウンを強引に押し付けてきたので、同じ5Vダウンを抵抗に押し付ければ、辻褄があうわけです。コンデンサは、躊躇わず、それを実行する・・・・というイメージです。
このコンデンサによる押し付けにより(?)電源電圧外の、マイナスな電圧がPNT2上に発生します。
ここまでくれば解ったも同然
さて、ここまでイメージできれば、非安定マルチバイブレータは理解できたも同然です。 今、Q1がON、Q2がOFFという状態だと仮定すると、まず、 R1下や、C1左は、Q1がONなので、0.6V付近まで下がっています。 R2を通して、C1右には、電圧がかかりますのでC1に充電が始まります。 R3から繋がるC2左は、Q1ベースがあり、トランジスタONなので、0.6V付近です。 C2右は、Q2がOFFなので、3V近くまで上昇します。 これらのことから、C1、C2に充電が開始されることがわかります。 この場合、R4がR2に比べて小さいので、C2が早く充電されていきます。
おくれて充電されていたC1ですが、この右もやがて0.6Vに達します。
するとQ2がONします。
このとき、C2右は、今まで3V付近の電圧が掛かっていたのに、突然0V付近にされます。
さきほど説明した、コンデンサ振る舞い2により、C2左は、−3V付近になります。
Q1のベースがマイナス3V付近になるので、Q1はOFFします。
すると、C1左が0.6V付近から3.6V付近に上昇させられます。
C1右も、振る舞い2により、3.6V付近まで上昇します。
つまりQ2のベースも急上昇します。
以下、これの左右対称の現象が起こり、繰り返されます。
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